【2020年12月号】東川技術審議官 インタビュー

進む建設現場のDX​
各工程での技術開発が加速​
新技術をつなぐ力が重要に
国土交通省 大臣官房 技術審議官
東川 直正 氏

建設現場の生産性向上や働き方改革、リモートを中心とする新型コロナウイルス感染症対策を実現する上で、国土交通省が進めるi-Constructionの重要性がますます高まっている。建設現場のデジタル・トランスフォーメーション(DX)によるICT、IoTの活用が急速に拡大し、調査・測量、設計、施工、維持管理の各工程でさまざまな新技術の開発が進められている。

i-Conの中核を担う東川直正国土交通省大臣官房技術審議官に、建設技術の将来を展望してもらった。


ICT施工の件数、工種が拡大


--建設現場のICTの活用状況を教えてください

 国土交通省が2016年からi-Conを開始して、5年が経過しました。まずは導入しやすい直轄土工からICT活用工事を開始し、導入件数や工種を拡大してきました。2019年度は約2500件の対象工事を発注し、約1900件でICT施工を実施しました。直轄を中心に公共工事のICT活用が増加している一方で、課題になるのが、小規模工事が中心になる地方自治体の発注工事を受注する中堅・中小建設企業への普及拡大です。

 小規模工事はスケールメリットを出すのが難しく、ICT建機に対する投資余力や人材・ノウハウの問題もあるため、ICT施工を経験したことのない中堅・中小建設企業が多いのが実情です。まずは各地方整備局が実施している講習会や見学会などに参加し、ICT施工の効果を知ってほしいと思います。

 そして、小規模なICT施工でも利益を出せるようにするため、国土交通省では、施工現場が狭いなど、標準のICT建機よりも規格の小さい機械を用いる場合は、新たに積算基準を設定することや見積を活用するなど積算面を対応しました。大多数を占める地域の中堅・中小建設企業に浸透させ、業界全体の生産性向上を図りたいと思います。

地方の工事も着実に普及


--自治体工事におけるICT施工の実施状況はいかがでしょうか

 先般、山口県の地元建設企業のICT舗装を視察しました。モーターグレーダーのローラーの転圧回数を記録しながら半自動で整地していくのですが、練習として、私も操作しました。出来形は、点群測量データと3次元設計データを統合して確認します。新卒の社員も十分に対応でき、利益も出しているそうです。

 県も工事規模を調整し、採算が取れる形でICT活用工事の発注量を増やしているそうです。地域の工事にも徐々にi-Conが普及していると実感しています。

直轄工事で新技術活用を義務化


--中堅・中小企業への普及をさらに促すにはどうするべきですか

 小規模工事への積算対応が最も重要だと思いますが、受注者が「やらず嫌い」にならないよう、表彰制度で加点するなどインセンティブを付与します。また、現場のすべてではなく一部でもICT化できれば、ICT施工として認める簡易型ICT活用工事など、受注者の間口を広げる取り組みを進めています。

 3次元データの活用以外でも新技術の開発や導入を進めたいと考えています。NETIS(新技術情報提供システム)には3000件もの登録技術がありますが、使われないものも多数あります。2020年度からは直轄土木工事は原則としてNETIS登録技術など新技術の活用を原則義務化しました。まずは新技術に飛び込んでもらい、生産性を上げていきたいと思います。

i-Conの範囲広がる


--建設業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)への期待は

 DXが進むことでi-Conの範囲が広がります。例えば鉄筋1本1本に3次元データを持たせることで、パソコン上で部材の干渉を確認できるようになります。これまで、仮設段階で、職人の勘に頼っていた作業をパソコン上で事前にシミュレーションし、資材が現場でぶつからない運搬方法を検討するなどの活用につながります。

 また、新型コロナウイルス感染症は建設現場の働き方にも影響を与えています。3密を回避するため、リモートによる非接触の仕事のやり方がわれわれにも求められています。建設現場も人が集まる密集状態を避けなければなりません。

 そのため、リモート技術を使った遠隔臨場を直轄工事で試行しています。通常、鉄筋コンクリートの配筋確認では、鉄筋の径、本数、間隔などが設計図どおりに施工されているかを監督官が現地で立ち会いますが、この検査をリモート化するため、現場をウェアラブルカメラで撮影します。遠隔地にいる監督官が、現場から送られてくるリアルタイムの映像を見て鉄筋の施工状況を確認します。今年度、約500件で試行する予定です。受注者には確認に必要な書類の削減などの効果も出ています。

 DXは、工事の安全向上にも貢献します。ICT施工は丁張りが不要になり、重機のそばに人が立ち入る作業が減少します。遠隔臨場も監督官は別の場所にいるため、現場に集う人数が減ります。ゆくゆくは無人施工の技術が発展し、技能者が遠隔地にある操縦席に乗り込み、画面を見ながら操縦する時代がくるかもしれません。スマートフォンなどモバイル端末を活用して建機を操作することも考えられます。

オープンイノベーションで他産業と連携


--そうした技術を実現するために必要なことは

 ICTを活用した施工技術の水準を確保する上で、建設現場でいま活躍しているベテラン技能者の技術や仕事の進め方を記録しておくことが重要になります。腕のいい職人さんの高齢化が進んでいるため、彼らの技術を映像などでコンピューターに残さなければなりません。そうすることで、省人化した場合でも、同じレベルの施工品質を確保する必要があります。また、さまざまな技術開発を進める上で、他産業が入れるオープンイノベーションが重要になるでしょう。

 直接施工にかかわるものでなくても、例えばトイレは現場の就労環境を改善する上でとても大きな役割を果たします。女性にとってトイレが不便な現場はまだまだあり、国土交通省も「快適トイレ」の普及を進めています。女性の活躍や働き方改革につながるさまざまな製品の開発を期待しています。

技術と現場をつなぐ人材を育成


--開発された新技術をどのように導入すればよいでしょうか

 世の中にある最先端の建設技術を知る上で、実機を体験したりメーカーから直接説明を受けられる展示会やマッチングの場が役立ちます。さまざまな技術に触れることができるため、企業だけでなく行政もヒントを得られるでしょう。建設業に関係なさそうに見える技術であっても賢い人が使い方に気づき、建設技術とつなぐことで革新的なツールに発展することもあります。

 つまり、どの技術をつなぎ合わせれば、自分の現場に役に立つかを考えることが非常に大切になるのです。そして、実際の現場に新技術を組み込み、効果を発揮させることが、施工者に求められる一番の技術力といえます。

 私は学生時代に、少しばかりAIに取り組んだことがあります。その時に学んだのは、AIだけでなく、導入される産業の実務の両方を広く浅く知っていることが重要になるということです。そうした人材がいることで、新しい技術も実務にうまくつながるのです。

 i-Conを進める上でも、今後は新技術と建設現場の既存の技術をつなぐ人材がますます重要になります。柔軟な発想を持つ若い人には、ぜひこの分野で活躍してほしいと思います。自分の範囲だけでなく、何にでも広く興味を持つことが、上手なマッチングにつながると思います。

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