インフラDXを地域建設業に拡大
担い手確保、安全安心の実現
若者が活躍し、夢が広がる産業に

国土交通省
技監
吉岡 幹夫 氏
国土交通省は、2022年をDX(デジタルトランスフォーメーション)による変革に果敢に取り組む〝挑戦の年〟に位置づけ、インフラ整備・管理や行政手続きを含めた業務全般のデジタル化を加速している。吉岡幹夫国土交通省技監に、インフラ分野のDXの取り組みと、目指すべき建設産業の未来を聞いた。
◆担い手確保へDXを促進
インフラ分野のDXの〝挑戦の年〟に向け、どのような方針で施策を進めていますか
建設業は災害の多い日本において、地域・国土の守り手であり、これを維持していかなくてはいけません。コロナ禍で世の中が厳しい状況にありますが、その中でも災害は待ってくれません。建設従事者はエッセンシャルワーカーであり、高齢化が進む中、担い手確保と生産性向上に取り組むことが重要な課題となっています。
国交省は2016年から建設現場の生産性向上を目指し、i―Constructionを進め、測量・調査、設計、施工、維持管理・更新にいたる各生産プロセスでのICT技術の活用を推進してきました。i―Constructionを中核に、さらに発展させ、行政手続きも含めてDXによる事業全体の変革を推進するため、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を20年7月に発足しました。21年12月には国土交通大臣を本部長とする「国土交通省DX推進本部」も発足し、省一丸となって国土交通行政のDXの加速に向け取り組んでいます。
22年はDXによる変革に果敢に取り組む〝挑戦の年〟に位置づけ、3月にインフラ分野のDXアクションプランを公表しました。アクションプランには利用者目線で実現できることを記載しており、常に利用者の立場に立って考えることが重要です。DX推進にあたっては、斉藤鉄夫大臣から、国交省幹部の意識改革と積極的な関与が重要であり、省横断的に取り組む方針が示されました。職員1人1人が高い意識を持って、積極的に取り組んでいきたいと思います。
◆小規模現場での環境整備を促進
22年度のインフラDXの目標を教えてください
インフラDXの中心的取り組みはi―Constructionです。ICT施工の実施状況を見ると、完全に自動化している現場もあれば部分的な活用に留まるケースもあります。工事や企業の規模に応じて目指すべきレベルを整理していく必要があるでしょう。
ICTを活用しやすい環境整備も重要で、小規模な現場でもICT施工が進むよう、小型マシンガイダンスバックホウの基準整備や、LiDARセンサを搭載したスマートフォンやタブレット端末で簡易に出来高管理をできるようにするなど、導入しやすい環境を整えています。ICT建機を安心して導入してもらうため、国交省によるICT建機の認証制度も今年度に創設します。
さらに、建設機械施工の自動化・自律化に向け、3月に「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を立ち上げました。現場の安全確保など、建機製造者とシステム開発者、施工者間の責任分担なども整理しながら、自動施工の現場導入を加速化していきたいと思います。
23年度の原則適用を予定するBIM/CIMでは、一度原点に立ち返り、設計、施工、維持管理のデータの受け渡しがうまくできているか、業界の意見も聞きながら課題を把握し、基準・要領を修正する必要があるか、データを引き渡す内容は何かといったことを今年度に整理します。
◆直轄工事で模範示し、リーダーシップを発揮
地域への普及をどのように推進しますか
直轄の対象工事では約8割でICT施工が実施されていますが、地方自治体の工事では3割未満に留まります。直轄工事でICT施工を経験した中小建設企業も受注企業全体の約半分に留まっており、インフラDX推進のため自治体や地域建設企業への普及が重要です。
国交省が、設計、施工あるいは発注方法などで模範を示し、リーダーシップを発揮していく必要があります。その一環として、整備局が提供しているICTのアドバイザー制度や講習会を推進していきます。関東、中部、近畿、九州の4整備局の技術事務所に設置した人材育成センターで、国交省職員、自治体職員、受注者に、BIM/CIMを活用した設計や施工管理、非接触・リモートの監督検査などの見学会や研修を行っています。
まずは直轄工事で率先して取り組み、その成果を地方自治体や地域建設企業に説明してインフラDXに参加してもらい、困ったときにアドバイスできる仕組みをつくることでDXを先導したいと思います。
◆刺激受け、技術向上の好循環へ
最先端の技術やサービスが集まる展示会で実機に接し、情報交換する意義は
技術は急速に進歩しています。半導体の分野では18カ月で性能が2倍となる「ムーアの法則」がありましたが、現在のデジタル技術の進歩や技術革新はそれ以上の速度で進んでいます。特にコロナ禍でテレワークやオンライン会議などの新しい働き方が浸透し、ドローン配送など新しい業態が急成長・急拡大するなど、短期間のうちに社会全体が著しいスピードで大きく変容しました。さまざまな技術やサービスが次々に生まれる中、「百聞は一見にしかず」で、最新技術やサービスを直接見て体験できる重要性は従前から変わっていません。
企業の方は他社の技術を見て、刺激を受けることで技術向上の好循環が生まれ、課題の解決策やイノベーションが生まれるきかっけになります。今回の建設・測量生産性向上展(CSPI―EXPO)で紹介される最新技術を間近に見て、体験し、刺激を受けることで建設技術の一層の高度化と、より広範囲な技術開発の促進につながることを期待します。
◆DXで若者に選ばれる産業へ
新技術が実現する建設産業の未来は
国交省では、22―26年度を計画期間とする「第5期国土交通省技術基本計画」を策定しました。技術基本計画での新たな試みとして、20―30年先の将来を想定し、学生の意見も聴きながら、長期的な視点で実現を目指す将来の社会イメージを▽国土、防災・減災▽交通インフラ、人流・物流▽くらし、まちづくり▽海洋▽建設現場▽サイバー空間――の6分野で示しました。
実現できるかどうかはこれからの話ですが、夢が広がり、これまでのイメージを変え、若い人に選ばれる、新3K(給与・休暇・希望)に「かっこいい」が加わった建設業を目指したいと思います。建設業は地域を支える産業として、建設業で働く人が希望を持てるよう、DXの推進による変革に業界などと連携して取り組んでいきます。