建設現場の生産性向上や人手不足の解消に向け、日本建設機械工業会は、新技術の積極的な活用や環境・安全規制の強化に取り組んでいる。「地震や豪雨など自然災害の復旧・復興への貢献」「環境・省エネルギーへの対応」「会員企業のグローバル展開支援」「i-Constructionなど新技術への対応」の四つの柱で協会活動を推進する本田博人会長に、生産性向上の鍵を握る建設機械施工の最前線を聞いた。
建設業界や建設機械業界は従事者の高齢化や人手不足が深刻化しており、建設機械施工の生産性を向上する上で自動化・自律化、遠隔施工が重要な分野となっています。国土交通省が直轄土木工事の87%にICT施工を導入していることが大きな推進力となり、会員各社は建設機械施工のDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推し進めているところです。
建設機械業界がDXと同じぐらい重視しているのがGX(グリーントランスフォーメーション)です。建機は産業分野におけるCO2総排出量の1・4%を占めるため、排出量の抑制が課題となっています。各社はディーゼルエンジンの燃費向上に取り組むだけでなく、電動化や水素燃料、バイオ燃料などの代替燃料を導入するための技術革新の取り組みを進め、温室効果ガスの抑制を目指しています。
このDXとGXの技術革新が連動することで、さまざまな分野へのシナジーの波及が期待されます。例えばICT施工は建機の稼働時間や手戻りを減らすため、CO2排出量を削減します。このようにDXとGXは密接につながるため、両面での取り組みが重要になります。
また、技術製造委員会にCN対応製品部会とCN対応製造部会を設置し、カーボンニュートラルへの対応について議論しています。2022年から、「税制改正・予算に関する建設機械業界の要望」に「カーボンニュートラルの実現」を盛り込み、投資促進税制の延長・拡充を求めるなど、GXのための環境作りに取り組んでいます。
国交省が17年に設立したi-Construction推進コンソーシアムに当初から参加し、当会のイノベーション委員会を中心に情報共有や意見交換を進めてきました。国交省が22年秋に開始したICT建設機械認定制度に各社はいち早く認定を受けるなど、国の取り組みを推進しています。
新技術の活用では、デジタル通信技術が進展し、各社が建機の管理の適正化に活用しています。通信技術は機械施工の自律化・自動化、遠隔施工にも不可欠なもので、災害対応や施工の省力化、安全性の向上などに貢献します。災害時に通信環境に制約がある場合でも、ローカル通信環境の構築などによる近距離からの遠隔操作なども可能になりました。
機械施工の自動化・自律化、遠隔化については、これまで施工者が独自に各現場で安全対策を講じてきましたが、施工者ごとに基準が異なっているとオペレーターの対応が大変です。そこで、安全ルールや開発の基準を標準化するため、国交省が「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を立ち上げ、行政機関、有識者、施工者とともに建機工も参画し、適切な安全基準の在り方などについて情報提供し、標準化の検討を進めてきました。建機メーカーの立場で必要な条件や環境について意見を出し、「自動施工における安全ルール1・0」を3月に公表しました。
特に遠隔操作は、自動・自律施工と組み合わせる必要があります。離れた場所から施工するため、位置情報を持つ3次元地形モデルをICT建機が読み込んで、自動・自律施工する必要があるからです。災害現場であれば測量士が現地に入るのが難しいため、ドローンを使って上空から3次元測量し地形データをつくります。そのデータを施工シミュレーションに活用した上で施工計画を作成し、マシンガイダンスやマシンコントロールに利用して遠隔施工します。機械施工をICT化する上でデータの利用がますます重要になっています。
建機工は、災害の復旧・復興を最重要テーマの一つに位置づけています。災害時にライフラインを維持し、防災用のインフラを守るため、建機の供給側として精一杯できることに取り組みたいと思います。その中でICTなどのデジタル技術を活用し、さまざまな災害に対応できるよう普及を進めたいと思います。災害対応と密接にかかわることで、防災・減災にも対応し、国土強靱化や住みよい国づくりに貢献したいと考えています。
遠隔施工も1991年の雲仙・普賢岳の噴火に伴う立ち入り禁止区域内での作業を行うために直轄工事に導入されたのが始まりです。今回のCSPI-EXPOでも会員各社が最先端の遠隔施工の技術を展示するため、ぜひ試乗して体験していただきたいと思います。通信技術も飛躍的に進化し、違和感なく施工できることが理解いただけると思います。本当に大きな技術的進歩が期待できる分野だと思いますので楽しみにしていただきたいと思います。
生産性向上に関する製品や技術を持つさまざまなジャンルの企業が出展するため、建機を目的に見に来た人でもプラスアルファの関連する展示を目にする機会がたくさんあると思います。建設業の関係者だけでなく、外部の業界の人もたくさん参加しますし、スタートアップの出展も多いでしょう。
建設機械業界の人材不足を解消するため、若い人にDXやGXに関連する数多くの製品や技術を見ていただき、建機の未来をイメージしてほしいと思います。そして最先端の技術を見て憧れを持ち、親しみを持ってほしいと思います。特に屋外展示エリアには本当に動かすことができる建機が展示されるため、貴重な機会になると思います。
建機工も若い人に建設機械業界を理解していただくため、会員各社の取り組みをまとめたリクルート用の動画を作りました。ウェブサイトに公開したところ、一回に30秒以上見た人が昨年だけで30万回を超えました。21年からカウントすると2年半で約90万回視聴されています。
また、われわれは自動車整備学校や工業高校などを個別に訪問し、業界の魅力をアピールする取り組みを推進していますが、CSPI-EXPOは各社の最先端の建機が集結するため、来場すれば主要メーカーの建機を見て、体験できます。そうしたことができる展示会は日本ではCSPI-EXPOだけであり、もし一社ずつ訪問して建機を見るなら大変な労力が必要です。建機工の人材確保の取り組みとシンクロしていると思います。
われわれが個社で建機のイベントを開くと、建機が大好きな子どもたちがたくさん訪れますが、大きくなるにつれて関心が薄れてしまいます。CSPI-EXPOでは学生の招待に力を入れているため、建機に対して継続して興味を持ってもらうためにも多くの学生にブースを見てもらいたいと思います。
また、多くのスタートアップ企業に出会えるのも魅力です。建機工としてもスタートアップ企業を支援したいという思いから、研究開発税制オープンイノベーション型の要件緩和や特殊税制の適応期間延長などを政府に要望し、スタートアップが活動するための環境整備に取り組んでいます。
深刻な人手不足が続いている中、建設各社は人材確保が大きなテーマになっていると思います。4月からは時間外労働時間の上限規制が建設業にも適用されました。その意味で、これからはどの業界も自らの取り組みをきちんと世の中にアピールし、安全性や将来性を説明できる必要があるでしょう。産業間の人材争奪も加速しているため、技術の革新性を見てもらうことは非常に重要なことだと思います。
来場する方には、建機の自動化・自律化、遠隔化がどのように進化しているかを見ていただくとともに、実際に体験していただきたいと思います。また、DXの進化がGXを加速させているため、代替燃料を活用した建機の駆動性なども体感していただきたいと思います。
建機工と会員企業は、ゼネコンや建機オペレーターなどユーザーあってのものだと思います。国交省の大部分の直轄土木工事でICT施工が行われる中、現場の効率化や省人化に貢献できるよう力を入れるとともに、CO2削減の取り組みを強力に進めたいと思います。そして、顧客の声に耳を傾けながら、これからも技術の向上に取り組んでいきたいと思います。
建機工では動画「20年後の建設現場」をHPで公開している。
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