建設業界の深刻な人手不足や働き方改革の課題解決に向け、BIM/CIMやICT施工を活用した建設DXの重要性が増している。土木工事の生産性向上の鍵を握るICT化のデータ連携のポイントの一つに、地形や道路の線形、横断情報のデータ交換標準『J-LandXML』の活用がある。4月にJ-LandXMLの管理団体に移行したOCFは、BIM/CIMのデータ連携の円滑化に向けて取り組みを加速している。LandXML仕様策定ワーキンググループの初代グループ長を務めた堀井裕信理事にポイントを聞いた。
建設省(現・国土交通省)のCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の施策を受け、1998年にCADベンダーが参加する「オープンCADフォーマット評議会」の設立が始まりです。CADのファイル交換フォーマット「SXF」の互換を検証するOCF検定(現SXF検定)を2001年に開始しました。18年よりBIM/CIMの拡大に合わせ、OCF検定にJ-LandXMLの互換性を検証する検定(現J-LandXML検定)を加えました。
もう一つの活動の柱が、OPEN CIM Forumです。BIM/CIMの技術的な課題に対し、ソフトベンダーが一体となり取り組みを進めています。国交省のBIM/CIM推進委員会に参加しているほか、国土技術政策総合研究所(国総研)の「LandXML1・2に準じた3次元設計データ交換標準(案)」の実装と仕様拡張も取り組みました。各地でBIM/CIMセミナーを開催するなど、ベンダーが個別に対応できない課題に対応しています。
19年6月に「一般社団法人OCF」に名称変更してから、BIM/CIM委員会が活動の中核を担い、諸課題に対応しています。現在は22社が参加し、設計側と施工側のベンダーが課題を持ち寄り、意見交換する重要な場になっています。こうした取り組みの成果として、J-LandXML1・6の移行に合わせ、管理団体の役割を国総研から引き継ぎました。
BIM/CIMやICT施工で活用する3次元データは、IFCやJ-LandXMLを標準フォーマットにしています。BIM/CIMを推進するには、設計から施工への3次元データのスムーズな引き継ぎが大切です。
J-LandXMLは、道路の線形や横断面を構成する「アライメントモデル」と、地形や計画土工を3次元形状で表す「サーフェスモデル」の二つの要素で構成します。
サーフェスモデルは形状を3次元で表現するのが得意ですが、編集や加工が苦手です。アライメントモデルは平面図や縦断図などの図面情報でなく、線形や横断の数値情報であるため、勾配や法面の長さの変更が簡単にできます。
一方、設計が作成したBIM/CIMデータをICT施工に使う際は、J-LandXMLをそのまま使うことはできません。ICT建機を利用できるようにするため、現況地形の法尻法肩の擦り付けや切盛境の明確化などの修正作業が必要になります。そのためJ-LandXMLに含むアライメントモデルを修正して活用するのが基本となります。
国交省は、BIM/CIM原則化に伴い、設計成果物としてJ-LandXMLの電子納品を求めることにしました。J-LandXMLのアライメントモデルの流通が進み、設計から施工にデータが流れるようになれば、これまでのように施工者がゼロからモデルをつくるのでなく、アライメントモデルを修正して活用できるため、ICT施工モデルの作成を大幅に効率化します。そうしたスキルが今後、施工者に求められるでしょう。また、納品されたアライメントモデルを活用し、設計者が修正設計に利用することも想定されるため、設計者間のデータ連携が進むよう機能開発に取り組んでいます。
ユーザーの生産性向上が最大の目標です。そのためにも、ユーザーの意見を伺い、J-LandXMLがより使われるフォーマットに発展させなければなりません。日本建設業連合会や建設コンサルタンツ協会などと協議し、意見や要望を直接聞き取れる環境づくりを目指すとともに、OCFの取り組みも発信したいと思います。OCFが国や他団体と意見交換することで、ソフト側だけでは解決できない問題に取り組みたいと思います。
特に、これからは現場やユーザーの声を聞き、アイデアをフィードバックした提案型の開発が重要です。その意味でJ-LandXMLの管理団体になったのは良いタイミングであり、新しい一歩を踏み出すきっかけになると思います。
また東北部会を23年に開設しました。東北地方整備局と東北6県、仙台市、建設業団体が構成する「東北みらいDX・i-Construction連絡調整会議」「東北土木技術人材育成協議会」に講師を派遣し、受発注者を対象にBIM/CIMについて講習を本格化しています。
異なるベンダーの製品やシステムを組み合わせ、デジタル技術を切れ目なく使うなど、高いスキルを持ったお客さまが増えています。一つのシステムで全てのワークフローをカバーするのではなく、いいものが出たらすぐ入れ替えて効率化する時代です。ベンダーも製品やシステムを組み合わせて提供することが重要であり、そのための技術や製品に出会う場になります。
16年に始まったi-Constructionは生産性の2割向上を目標にしました。大きなテーマに3次元化を掲げましたが、少しの改善を積み重ねれば達成できる数字だと思います。アナログ的ではありますが、CSVデータも上手に使えば簡単に生産性が向上します。そういう〝気づき〟みたいなものを得られる場所になるでしょう。
設計成果などをデータベースにストックし、AIを活用することで業務効率化が進み、技術やノウハウの継承に使えるようになるでしょう。それには情報をデザインする能力が必要です。
そして、建設生産システムの未来を考える上で鍵を握るのは中小企業にどれだけDXが浸透するかです。大手企業だけでなく、実は地域の中小建設業もICTで仕事を楽にし、利益を増やしています。課題は、その少し上にいる〝中間層〟というべき企業です。それなりの数の下請け企業を使うため、DXが進みづらいのが実情です。そうした企業にBIM/CIMの活用をきちんと提案し、利用者が行動変容し、仕事の仕方を変えることでイノベーションにつなげることが重要です。