第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO2025) 出展資料請求 [無料] 会期 2025年 6月 18日(水)・ 19日(木)・ 20日(金)・ 21日(土) 会場 幕張メッセ

  • 会期 2025年6月18日(水)・19日(木)・20日(金)・21日(土)
    10:00〜17:00(最終日21日のみ16:00まで)
  • 会場 幕張メッセアクセス
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建設業の事業承継へM&Aが拡大
成長戦略型が最新トレンド
企業連携でシナジーを追求
人材育成、生産性向上に貢献

  • 株式会社日本M&Aセンター
  • 上席執行役員
    ダイレクトチャネル部長
  • 久力 創
  • 株式会社日本M&Aセンター
  • 東日本ダイレクト1部
    (建設業担当)部長
  • 木佐木 隆志

経営者の高齢化や後継者不足による建設業界の事業承継の課題を解決するため、M&A(企業の合併・買収)が急速に拡大している。さらに人手不足の解消やDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上、企業グループ化によるシナジー(相乗効果)の創出に戦略的に取り組む〝成長戦略型M&A〟が注目されている。日本の市場を開拓したM&A業界のリーディングカンパニーとして建設分野でも数多くの実績を誇る日本M&Aセンターの久力創上席執行役員ダイレクトチャネル部長と木佐木隆志東日本ダイレクト1部(建設業担当)部長に、建設業におけるM&Aの最新動向を聞いた。

どのようなM&Aの支援を展開していますか

久力 当社は現在名誉会長の分林保弘と全国の税理士・公認会計士の先生方が後継者問題を解決するために創業しました。分林の前職において全国の会計事務所や金融機関にソフトを購入してもらい関係が深まる中で、企業の顧問や相談役を務める先生方から後継者問題に悩む経営者が多くいることを教えていただきました。日本ではM&Aがあまり知られていない時代でしたが、海外では中小企業も当たり前に行っていたため、事業承継の課題を解決するために日本M&Aセンターを1991年に創業し、今年で33年目を迎えます。

創業時にもかかわらず全面広告を全国紙に掲載してPRしたほか、全国の会計事務所や金融機関にノウハウを提供し、M&Aの概念や活用法を広めたパイオニア的存在であり、「事業承継型M&A」を確立しました。全国の地方銀行の9割、信用金庫の8割、1000以上の会計事務所と提携し、国内最大級のM&A情報ネットワークを構築しています。

当社が創業した30年前に40歳だった経営者が今は70歳です。そのころからM&Aという言葉を耳にする機会が増えたと思います。当時は考えもしなかった後継者問題が自分ごとになり、今まさにM&Aによる事業承継が増えています。経営者にとってM&Aに対する心理的距離は近くなったのではないでしょうか。

建設業界におけるM&Aの状況は

久力 私が入社した16年前はちょうどリーマンショックが起きたころです。当時の建設業のM&Aの成約比率は当社の中で高くなく、譲り受けてもシナジーが出にくい業界と考えられていました。公共事業が最も縮小した時代で新規事業を求める傾向が強く、農業や環境ビジネス、太陽光発電、介護、医療などの企業を譲り受けていました。

人材獲得を目的に建設業界内でのM&Aが盛んになったのはこの10年です。2022年度に当社が成約した約1000件のうち27・8%が建設業の案件でした。10年前の12年度は、12・8%で半分以下でした。譲渡に動く企業が増えたのが大きな特徴です。

この間、M&Aなどに積極的に投資してきた企業は大きく成長し、逆にM&AやICTなど成長への投資を怠った企業が廃業、倒産するケースが増えています。一方で大手企業に譲渡した企業が、グループ中核企業となり、今度は譲受け企業として更に成長している事例もあります。

木佐木 今の建設業の特徴的な動きは、成長戦略型のM&Aが増えたことです。成長戦略の一環として大手企業への譲渡を検討しつつ、後継者不在の課題も合わせて解決するスタイルがトレンドになっています。

若手経営者がM&Aで活路

経営者が会社を譲渡する年齢も若くなりました。5年程前は60-70代が多かったのですが、現在は50代が中心になった印象です。事業承継とは別に、自社単独の経営に閉塞感を感じる経営者が増え、他社と組んで成長することを選択肢とし、どうすればシナジーで大きく成長できるかを考える経営者が増えてきました。そのため、急いでM&Aする必要もなく、時間がかかってもベストな相手に出会うために、数百の候補企業の中から1社を選んでいただくこともあります。

一方、企業を譲り受ける側は経営者を送り込む必要があります。しかし企業を経営できる人材は大企業でも多くないため、譲渡オーナーが若くて事業意欲があれば親会社の役員になって活躍するケースもあります。能力が高いと感じたら別のビジネスも任せるシナリオもあり、経営人材を獲得するためにM&Aを行うことも海外では珍しくありません。

久力 事業承継型M&Aを始めたときは、譲渡企業と譲受け企業がトップ面談をすると、昔は譲渡企業の息子が後を継がずに困っているのでなんとか当社をお願いします、というスタイルが多かったのですが、最近は一緒になることで会社や社員にどのようなメリットを得られるのか、あるいは譲り受ける側についてしっかりと精査や確認をすることが増えました。譲渡企業が会社のためにベストな相手を探すステージに変わってきています。単独で成長する選択肢もありますが、どこかと組むのであれば具体的に会って可能性を探るのがいいですし、結果的に自分が100%オーナーでやるのもいいと思います。自ら選択肢を狭める必要はないと思います。

事業承継を進めるうえでポイントは

久力 オーナー企業を従業員が継ぐのは基本的に難しいと考えるべきでしょう。中小企業のオーナー社長は会社を創業し、育ててきたカリスマです。社員や家族の生活を背負い個人の資産を投げ打って何十年も経営してきました。その苦しさは副社長も専務も経験していないものです。社長から何億円もの借金や経営の重荷を譲り受けてほしいと言われても、社員にはハードルが高いといえます。自分で起業するよりも難しいのではないでしょうか。

木佐木 事業承継せず廃業したいと考える経営者も多いと思いますが、その選択肢はもったいないと思います。廃業もすぐにできるものではなく、新規の受注を止め、今の工事を終わらせて少しずつ社員を減らしていくので時間とコストがかかります。今の財務状況のまま廃業できないため、おそらくお金も思ったより残らないと思います。

地域の守り手を絶やさない

公共工事を手掛けている会社は地域のインフラの守り手であり、廃業すると入札不調につながるなどデメリットが多く、担い手確保は自治体としても大きな課題だと思います。M&Aで事業承継することでインフラを維持する社会的な意義もあります。

若手経営者が積極的にM&Aに動く背景は

木佐木 若くしてM&Aを検討する経営者は、中長期的に業界や地域の将来を考える方が多い印象です。周囲の企業の合従連衡が進み、M&Aがうまくいくケースが増えてくると、自社が単体でどこまでできるか、従業員のキャリア形成や働く環境などを含めてどうするべきかを考えるきっかけになります。

久力 私の経験からいうとM&Aの一番の目的は時間を買うことです。他社で育成された社員を一気に数十人も譲り受け、自社の工事を手掛けてもらいます。人を譲り受け、あるいは入札資格を買うための対価といえば分かりやすいでしょう。今まで土木工事を手掛けてきたが上物の建築を始めたい、設備工事にも拡大したいという時にM&Aします。

私は、関東で売上数十億円規模の、関東地方で指折りの大規模修繕工事会社の譲渡を支援したことがあります。当時の経営者は50歳程と若い方で、大手企業に譲渡することになりました。

譲渡企業は、塗装業の一人親方から仕事を始めた方です。現場が好きで仕事をしているうちに仲間が100人規模に増えました。大規模修繕工事のお客さまはマンション管理組合のため、主婦やお子様が親しみやすいようホームページをきれいにし、工事分野以外でもビジネスを拡大しました。ウェブデザイナーを採用するなど職種が広がり若い従業員も増え、このままでも3年や5年は順調に成長するのは間違いなかったのですが、10年、20年先の従業員の未来を考えたときに、夢を与えられるかを考えると自分の能力だけでは不足を感じたそうです。その結果、外部の企業に経営してもらうことがベストな選択と判断しました。

そのオーナーからは、おもしろい候補先だけを連れてきてほしいと頼まれました。そして決めたのが直接的なシナジーが少ないと思われた、新築工事が主体の大手企業だったのです。現在はリフォーム工事のM&Aの譲受け企業として事業を拡大し、売り上げは倍増しています。会社を譲渡して終わりではなく、大きな企業グループの中核企業となり、次は譲受け企業となる成長ストーリーがありました。

M&Aした企業に明確な失敗事例はほとんど聞きません。私も16年ぐらい携わりましたが、意見の衝突があったとしても数十件に1、2件です。ほとんどの場合は課題に対する不安が解消され、事業は軌道に乗っています。

CSPI-EXPOの来場者にメッセージを

久力 人材の育成や有効活用という意味ではDXもM&Aも根本の課題は同じだと思います。M&Aをした相手側のITツールを使いDXに取り組むこともあります。また、数十人規模の企業が単独でITに投資するよりも、数百人、数千人規模の企業の方が費用対効果が高いため、大手のグループに入ることでIT投資の効果を高める選択肢もあります。

特別セミナーで事例を紹介

木佐木 建設業界に共通する人材確保、資材価格の高騰、エリア戦略、生産性向上などの課題を解決する選択肢として、M&Aをご検討いただくために情報発信をさせていただきたいと思います。事業承継が課題の場合は、まず親族、いなければ社員、どちらもだめならM&Aで第三者に任せるという順番で考える方が多いと思いますが、成長戦略や今後の先行きを見ながら合理的に考えるならば、M&Aで第三者と組んで課題に立ち向かう選択肢は有力だと思います。当社がCSPI-EXPOで行う特別セミナーではそのような形でM&Aした場合の事例や効果などを紹介させていただきたいと考えています。

久力 私たちがよく言うのは、どこに売るか、買うかではなく、どこと組んで成長するかです。会社の将来を考えるとき、第三者と組んで成長する選択肢があることを知ってもらいたいと思います。それも小規模な会社から大企業まで全ての企業に選択肢は開かれているため、視野を狭める必要はありません。当社が具体的な選択肢を提案させていきただきたいと思います。