建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者登録者数が、3月末で110万人を突破した。実に、約300万人と言われる建設技能者の3分の1を超える水準に達したことになる。運営主体である建設業振興基金の谷脇暁理事長は、CCUSを『建設DXの一翼を担う建設業界共通の制度インフラ』に位置づけ、「アナログ的に働いてきた建設技能者をデジタルの世界に取り込む活動でもある」とCCUSの普及に伴う効果を強調する。建設DXとCCUSがもたらす建設産業の将来を谷脇理事長に聞いた。
CCUSを運用開始してから4年が経ち、22年度末で約114万人、約21万8000社が加入する規模に拡大しました。建設業界、行政の皆さまのご尽力の賜物です。同時に100万人はまだ通過点です。地方の現場や小規模な現場にも拡大し、就業履歴の蓄積を増やし、技能者の処遇改善につなげるにはまさにこれからが正念場です。運営主体として責任をもって、関係の皆様としっかりと連携し全力で取り組んでいきます。
今後重要になるのは、技能の向上に伴うレベル別判定を受ける登録技能者の増加です。国土交通省は今夏にも業種別レベル別の年収を公表する予定と聞いています。これは設計労務単価のデータをベースにCCUSのデータを加味して算出するもので、レベル別の技能者の報酬の目安として扱うことができるものになると思います。専門工事業団体が認定する4段階の能力評価レベルに対応する年収の目安が示されるため、技能者自身がレベルアップによる処遇改善に向け、資格を取得し、現場でカードをタッチする流れが生まれ、CCUSを活用した処遇改善の好循環ができると期待しています。
また、国交省は「受注者による廉売の制限」について検討を進めています。自ら安値受注することを抑止し、技能者の処遇を下支えすることが目的ですが、CCUSのデータはダンピング的な受注かどうかの判断にも役立てられるのではないかと考えています。
CCUSは、アナログ的に働いてきた建設技能者をデジタルの世界に取り込む活動でもあります。例えば社会保険加入の取り組みでは、実際に加入しているかどうかを現場できちんとチェックするにはデジタル的な管理が不可欠になってきます。さらに、就労履歴や資格を蓄積することでその人の技能レベルをある程度客観的に評価できるようになります。デジタルの力で処遇改善や生産性向上に結びつけることができるようにということです。その意味で、CCUSは「建設DXの一翼を担う建設業界共通の制度インフラ」として、今後も活用の幅が拡がっていくと考えています。
例えば、CCUSはAPI連携できるため、民間企業が提供する建設DXサービスとデータ連携することにより、生産性向上にも大きく寄与しています。作業員名簿の作成や現場の入退場管理などさまざまな場面で活用範囲が広がっています。CCUS側で、本人確認、職種や保有資格、社会保険の加入、就業履歴などをデジタルデータ化して整えているため、それぞれの企業がプラスアルファの機能を追加してより高度な活用が可能です。
ICT施工などの現場のDXが先行していますが、バックオフィスを含めた生産性向上にもCCUSの現場での情報と蓄積されたビッグデータが役立つと考えています。
民間企業によるニーズをつかんだ良い製品やサービスはすぐに現場に広がります。建設業振興基金もIT分野などの企業との付き合いが増え、CCUSに対する民間企業の関心が高まっているのを感じます。デジタル化を推進する社会の流れにうまく乗っていきたいと思います。
CSPI-EXPOは、デジタルと建設の両方の分野に精通した数多くの企業が出展されます。CCUSを活用して、施工現場のみならず、バックオフィスを含めた生産性向上につながる方法を見つけたり、API連携で新たな機能開発につなげることなどに大きな期待を寄せています。
それぞれの企業のアイデアを生かし、CCUSから得られる情報やビッグデータを活用することで、現場やバックオフィスの生産性向上を図りつつ、処遇改善や人材育成を行い、そのための必要経費の転嫁に向けた理解醸成にもつなげていければと思います。そして、建設業界がさまざまな分野の業界とコラボレーションすることでより良い方向に進んでいってほしいと思います。
将来像については、これからの建設業界を担う人材の育成と発注者や消費者の理解ということがより重要になってくると思います。
DX化が進む中で、就業者人口は大幅に減少していきます。より少ない人数で、最新の技術技能を身に着け、効率よく仕事を進める必要があり、そのためには、人材の育成、特に体系的で継続的な訓練が重要になると思います。変化し続ける現場にふさわしい人材をスピーディーかつ継続的に育成するためにもCCUSは役立つと思います。CCUSに蓄積されたデータをもとに、それぞれの経歴や技能レベルにあわせて効率良く訓練を受け、さらにその訓練の履歴も残していく。これを継続していけば、技能者の技能も向上し、そのレベルも証明でき、処遇向上にもつなげていけると思います。
そして、もう一点、発注者や消費者の理解についてです。処遇改善や働き方改革を実行することで増加する労務費のうち、生産性向上でカバーできない部分は発注者や消費者の理解を得て負担していただく必要があります。発注者は、行政機関、民間事業者、個人など非常に多様な主体です。CCUSのデータを活用すれば、その工事でどのような技能レベルの人たちがどのくらい施工に携わったのかを示せることから、技能者のレベルや働き方に伴う必要な労務費について発注者や消費者の理解を得るのに役立てられるようになると思います。すでに、国交省の直轄工事では働き方改革の一環として週休2日がしっかりと実施されているかどうかをCCUSにより確認する取り組みが始まっています。
重層下請け構造のIT業界は、サプライチェーンを構成する協力会社を含め法令を順守し、適切な勤務時間や労働環境で働くためのRBA(レスポンシブル・ビジネス・アライアンス)行動規範が浸透してきました。これからは建設業界も同様の取り組みが求められようになるのではないでしょうか。CCUSは、そのような面での発注者や消費者の信頼を得るツールとしても役立つと思います。
最後に、今後、CCUSは地方や小規模な現場にも普及拡大していくことが重要です。CCUSは建設業界全体で技能者の将来的なキャリアアップの道筋を示し、処遇の改善と人材確保を目指すものであり、生産性の向上や働き方改革、人材の育成、価格転嫁などにも活用できるシステムです。単独ではこのような取り組みが難しい中小企業やそこで働く方たちにより大きな効果をもたらすものと考えています。CCUSの全面普及に向けて、関係の皆様と連携して、しっかりと取り組んでいきます。